枇杷の木

子どもの頃、祖父の家の庭に枇杷の木が植えてあった。

 

毎年、梅雨の前になると、大きく黄色に膨らんだ枇杷の実を

 

使い古した銀色のボウルにこれでもかと収穫して食べるのが好きだった。

 

祖父が亡くなった後、その枇杷の木は切られてしまい、今はもうないのだけれど、

 

大人になった今でもこの季節になると枇杷の実が食べたくなる。

 

なんてない、子どもの頃の思い出だけれど、その記憶の中に季節を感じることができる教養のようなものを覗くことができて、

 

今思えば、それぐらいのことがただただ幸せだった。

 

 

先日、恩師の知人が亡くなり、その方が生前使っていたカメラを譲り受けた。

 

奥様が「誰かカメラが好きな人に使って欲しい」という御厚意によるものだそうだ。

 

その方も随分と使ってなかったであろう埃だらけでレンズにもカビが生えて、修理しないと到底使えない「PENTAX MX」

 

もちろん状態がいい物は中古カメラ店にたくさんある。しかし、譲り受けたのが縁と思いオーバーホールに出して今日戻ってきた。

 

あんなにボロボロだったのに、ピカピカになって返ってきた。

 

それでも真鍮は、故人がこのカメラをたくさん連れ出し、そして写真を撮った足跡を残してくれている。

 

亡くなった恩師の知人とは面識はないけれど、このカメラをこうして修理してバトンタッチ。今度は自分がこのカメラの足跡をつける順番。

 

大切に使い、願わくば次にバトンタッチをする時が来ても、写真が撮れるカメラでありますように。